奇跡のリトルシティ
“日本一小さな植物園”とはここ渋谷区ふれあい植物センターのこと。
開設から15年が経過し経年劣化が進んでいた施設の改修にあたり、渋谷区版の地産地消、地域コミュニティの形成を推進する場が求められた。私たちは「小さな空間」という既存の条件に着目し、一般的な広大なスペースを使った植物を鑑賞する“見る植物園”とは圧倒的に異なる“参加型植物園”として、自然と人との距離感や関わり方など、小さいから出来ることをポジティブに捉え考えることから始めた。
サスティナブルな社会の実現や、農と食の地域拠点という大きなテーマを分解し、カフェやレストランやショップ、ライブラリーやシアター、ファームや水耕栽培室といった多様なコンテンツと農を掛け合わせることで「農×食」を身近な体験へと落とし込むことにした。種まきや水やり、花や実がなる過程で野菜の旬を知り、食べた野菜のクズが肥料となりまた次の植物を育てるための力になっていく。スーパーに並んでいる野菜からは知ることのできない循環を凝縮させ体験として学ぶことができる都市生活者のための育てて食べる植物園を目指した。
計画を具現化する上で、既存の施設に不足する解決すべき点がいくつかあった。分断されている1階から2階への新たな動線と回遊性、植物を植える為の土の面積、そして日照時間。これまでは不足する日照を熱帯植物に養分を与え補足していたが虫害問題から食べることを目的にした野菜の栽培には不向きで純粋に日照が必要とされた。そこで地面が隆起したような“きのこ型”の起伏を作るというアイデアで、土の表面積を増やし地面を持ち上げて日照を確保、同時に畑の中を散策し小山を登るような楽しい道の一部として計画した。
それらはRを用いた既存躯体と相まってダイナミックな自然な風景となるよう色や形を協調させ空間全体を豊かな土壌に見立てた。コルクを積層し5軸加工で丸みを持った有機的な造形とした5つのキノコ状の土の舞台は、床であり、屋根であり、階段でありテーブルでもある。スケール感を混在させることで自然界の創造やミクロとマクロの世界を行き来するような自然界の不思議を身体で感じられるような一つの世界観を風景として生み出すよう意図している。
自然と人の活動が共生し多様性を許容する開かれた場所へ。視覚や触覚や食べるといった五感を駆使し、登ったりくぐったりという身体感覚を使って体験できる参加型の植物園として “未来を耕す”場として活用されることを願う。